COLUMN

Category

一体感の罠|そもそも、一体感とは何か

一体感の罠|そもそも、一体感とは何か

社員総会の相談で、いちばん多く出てくる言葉が「一体感」です。自分も企画書に何度も書いてきました。ただ、この言葉が何を指しているのかは、ほとんど話題になりません。経営者も、制作する側も、分かっているつもりで使っている。そのまま演出に翻訳すると、たいてい「揃える」になります。全員で同じ動作をして、同じ言葉を唱和して、同じ音楽で盛り上げる。その場は揃います。自分たちもやってきましたし、今でも場面によっては使います。

ただ、揃えてつくった状態は、翌日に残りません。揃えている間だけ揃っていて、揃えるのをやめると戻る。あれは一体感ではなく、同調です。同調している間は、合わせることに集中していて、自分の考えは脇に置いている。対話している間は、相手の言葉を聞いて、自分の中になかったものが増えていく。翌日に残るのは後者で、前者は残らない。しかも揃えた場では、揃って見える分、何も残っていないことに気づきにくい。ここが罠です。

では、一体感とは何なのか。自分の中で答えが見えたのは、居酒屋甲子園を初めて見たときでした。あの大会には、中心にいる一人がいません。誰かが壇上から語って客席が受け取る構造ではなく、同じような立場の人が、それぞれのステージで自分の店の話をしている。揃っていないのに、会場は一つの場として成立している。講演ではなく、対話の場でした。

社員総会で言えば、営業の人と製造の人と、入社半年の人と二十年いる人が、同じ会場でそれぞれの言葉で話している状態です。同じ価値観の人が並んだ心地よさではなく、違う価値観の人が混ざっていて、それでも場が壊れていない。揃っていないのに、誰も居心地が悪くない。それぞれが、ここは自分の居場所だと感じている。自分たちが一体感と呼ぶのは、揃っていることではなく、この状態です。

その居場所を支えているのが、会社の理念やミッション・ビジョン・バリューです。やり方も考え方も違っていていい。ただ、何のためにこの会社があるのかは共有している。その一点が土台にあるから、違いが対立にならない。逆に、その一点を共有していない人は、揃えなくても自然と離れていきます。それでいいと思っています。合わない場所に居続けることは、本人にとっても周りにとっても、いい結果になりません。

だから設計では、全員を同じ方向に向かせることを目的にしません。立場の違う人それぞれが「自分の居場所がある」と感じられる動線を先に組みます。順番にすると、こうなります。

  1. その日の会場に誰がいるかを、立場ごとに並べる。部署、年次、役職、その日の役割
  2. 何のためにこの会社があるのかが、揃えるかたちではなく伝わる時間を置く。唱和ではなく、経営者や社員が自分の言葉で話す時間
  3. それぞれの立場から見て、「自分のための時間」がその日の中にあるかを確認する。全員向けの時間だけでは組まない
  4. 立場の違う人が、同じ時間に同じ場所にいる場面を残す。揃えるためではなく、混ざるために

明日ひとつだけ試すなら、次の会議で、全員に同じ答えを求める場面を一つ減らして、違う立場の人が違うことを言う時間を一つ増やす。自分たちがやっているのも、それを会場の規模でやっているだけです。

理念を土台に、立場の違う人が同じ会場にいて、それぞれが自分の居場所だと感じている。揃っていないのに、壊れていない。自分たちはその状態を「いいムード」と呼んでいて、企画書に一体感と書くときは、この状態を指しています。

WRITER

杉田 純一(すぎた じゅんいち)

株式会社ムード 事業責任者。社員総会、カンファレンス、コンテストなどのイベントと映像の企画・制作を手がける。居酒屋甲子園 全国大会の制作と、出場店舗のプレゼン指導を担当。