「課題は何ですか」で止まったら、現在地とゴールを聞く|経営者から本音を引き出す、たった一語の違い
社員総会の依頼を受けると、最初の打ち合わせで経営者に会います。名刺を交換して、最初に聞くのは「今回のイベントの目的は何ですか」。ありきたりな質問で、返ってくる答えもだいたい決まっています。「社員の一体感を高めたい」「理念を浸透させたい」。嘘ではありません。ただ、それはゴールではなく、ゴールの顔をした定型文で、どの会社に当てはめても成立します。
それでいいと思っています。この段階では、まだ本筋に入っていません。
「はい」で答えられる質問を、いくつか重ねます。開催は例年どおりの時期か。参加は全社員か。前回と同じ会場か。答えに困らない質問を繰り返しているうちに、相手の口が動く準備ができて、こちらも会社の輪郭がつかめてきます。
土台ができたところで、「課題は何ですか」と聞きます。
ここで、すんなり出てくることは少ないです。理由は二つあります。
一つは、言葉の問題です。課題という言葉には、自己否定が混ざります。自分が経営している会社の、足りていない部分を、会って間もない相手の前で口にすることになる。人前で言いやすい話ではありません。出てきたとしても、慎重に選ばれて、角が取れています。
もう一つは、順番の問題で、こちらのほうが大きいと思っています。自分たちが拠りどころにしている戦略論では、課題を「理想と現実のギャップを生んでいる原因」と定義しています。原因である以上、理想と現実の二点が先に置かれていないと、特定のしようがない。ゴールと現在地が決まって、そのあいだの距離が見えて、初めて「何がその距離をつくっているか」が言えます。課題を単体で聞くのは、この順番を飛ばしています。
だから止まったら、こう切り返します。
「そもそもの目的やビジョンがあって、そこと今とのギャップは何ですか」
聞いているのは、ゴールと現在地です。この二つが置ければ、そのあいだの距離が出ます。距離が出れば、それをつくっている原因の話ができる。到着駅を先に決めれば、乗り換え検索は勝手に経路を出します。行き先を決めずに「今の路線の問題点は」と聞かれても、答えは出しようがありません。
言葉を一つ変えているように見えて、実際に変えているのは順番のほうです。「課題」は否定を含み、しかも順番として最後に来る言葉。「ギャップ」は距離しか含まず、順番として先に来る言葉。経営者側が変わったのではなく、こちらの聞き方が、答えられる順番になっただけのことです。
この聞き方には、前提があります。自分たちの仕事は、その会社がゴールに着いていて、このままでいいのなら、そもそも必要のない仕事だということ。払拭したいことがあるか、行きたい場所があって、現在地からそこまでに距離がある。その距離を詰めるために頼まれています。依頼が来ている時点で、距離はある。だから聞くのは「課題があるかないか」ではなく、「どこからどこまでか」でいいと思っています。
採らなかった選択肢は、課題が出てこないところで聞くのをやめて、最初の定型文から企画を組むことです。「一体感を高める社員総会」は作れます。作れますが、現在地を知らずに組んだ企画は、どの会社でも成立する総会になります。
順番にすると、こうなります。
- 「今回の目的は何ですか」から入る。定型文が返ってきていい
- 「はい」で答えられる質問を重ねて、答える側の土台をつくる
- 「課題は何ですか」と聞く。止まることを前提にしておく
- 止まったら、ゴールと現在地に切り返す。「目的やビジョンがあって、そこと今とのギャップは何ですか」
- 距離が出たら、その距離をつくっている原因を聞く。ここで初めて、課題が課題として出てくる
- 出てきた原因を、企画の起点にする
ヒアリングシートは作っていません。項目を並べたシートは、どの会社に持っていっても同じ質問になります。順番と言葉選びのほうが、項目より効きます。
明日ひとつだけ試すなら、社内の会議でも取引先との打ち合わせでも、「課題」で相手が止まった一回だけ、「ゴールはどこで、今どこにいるか」に言い換えて聞き直してみる。それで答えがどう変わるかを見ます。
社員総会は、当日に何時間もかけて、準備には数ヶ月かけます。それでも一番大事なのは一回目の打ち合わせで、そこで出てきた現在地とゴールが、残りの全部の土台になります。