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AIが生んだ時間を、売らない|デジタルが増えるほど、同じ場所にいる時間の価値が上がる

AIが生んだ時間を、売らない|デジタルが増えるほど、同じ場所にいる時間の価値が上がる

最近、AIをかなり仕事に使うようになりました。企画を考える。文章を書く。調べる。整理する。比較する。以前なら数時間かかっていた仕事が、驚くほど短い時間で終わります。当然、こなせる仕事の量は増えました。

なのに、以前と同じくらい脳が疲れています。むしろ、前より早く眠くなる日すらある。

考えてみると、AIによって減ったのは「仕事」ではなく「作業」でした。以前の仕事には、資料を探したり、文章を打ったり、誰かの返信を待ったりする時間があった。仕事ではあるけれど、脳が常にフル回転していたわけではない。AIはその部分を猛烈な勢いで取り除いていく。すると残るのは、「どっちがいいか」「これは違う」「もっと良くできないか」という判断ばかりになります。

AIは疲れません。「もう一案」と言えばすぐ出してくる。人に頼んでいた頃の待ち時間は、今思えば脳の休憩でもあったのに、AIはその休憩まで効率化してしまった。だから8時間働けば、8時間ずっと高密度な判断を続けることができてしまいます。

ここで一つ、疑問が生まれます。生産性が2倍になったなら、8時間で2倍の仕事をすることだけが正解ではないはずです。4時間で、これまでの8時間分を終えてもいい。でも、なかなかそうはならない。4時間で終われば「あと4時間でもう一つできる」と思ってしまう。会社に言われなくても、自分でそう思う。

自分たちは、自分の時間を売ることができます。だからAIが時間を生み出してくれても、その時間に値段をつけて、また市場に差し出してしまう。4時間の自由が生まれたはずなのに、気づけばそこにも別の仕事を入れている。AIによって自由になったはずなのに、仕事の密度だけが上がっていく。

だとすると、これから必要になるのは「AIをどれだけ使いこなせるか」だけではないと思っています。AIが生んだ時間を、売らない能力。そちらのほうが難しい。

そしてこのことは、自分たちの仕事の価値にもつながっています。AIが得意なのはデジタルの世界です。文章、画像、分析、企画、コード。こうしたものの生成コストは猛烈に下がっている。一方で、現実世界はそれほど速くならない。髪を切る時間。料理をつくる時間。誰かを介護する時間。人が集まって、同じ場所で何かを体験する時間。そこには、まだ人間の身体と時間が必要です。

デジタルが無限に増えるほど、有限である人間の時間の価値は上がる。AIが文章を無限につくれるからこそ、直接誰かと話すことに価値が出る。AIが体験をいくらでもシミュレーションできるからこそ、実際にそこへ行くことに価値が出る。自分たちが社員総会でやっているのは、まさに「人が集まって、同じ場所で、同じ時間を過ごす」ことで、これはAIが増えるほど希少になっていく側の仕事だと思っています。

採らなかった選択肢は、生産性が上がった分だけ案件数を増やすことです。できます。AIで4時間空けば、もう1案件入る。ただそれをやると、一つの案件にかける「人が同じ場所にいる時間」が減っていく。自分たちが売っているのは、その時間のほうです。

AIが4時間を生み出してくれたとき、その4時間でもう4時間分働くのか。それとも、散歩をするのか。家族と過ごすのか。本を読むのか。何もしないのか。AI時代に問われるのは、生産性ではなく、こちらのほうだと思っています。

明日ひとつだけ試すなら、AIで早く終わった仕事の後に、次の仕事を入れずに15分だけ何もしない時間を置いてみる。その15分を、売らずに済んだかどうかを見る。

AIが時間を生み出してくれる時代だからこそ、その時間まで売らないという選択が、今まで以上に難しく、そして大切になっていると思っています。

WRITER

杉田 純一(すぎた じゅんいち)

株式会社ムード 事業責任者。社員総会、カンファレンス、コンテストなどのイベントと映像の企画・制作を手がける。居酒屋甲子園 全国大会の制作と、出場店舗のプレゼン指導を担当。